ザレゴトドットコム

大学院生が何か書きました。

キモチップの「キモ」は何を指すか

 

Twitterには「トレンド」がある。

 

 

 

「今の時間帯に多く呟かれているワード」が「トレンド」であると認識している。

 

 

 

 

 

僕は「トレンド」を見ることが好きで、これを見ることで「今話題になっているニュースや話題は何か」をチェックしている。

 

 

 

 

 

 

 

その中で今朝、気になる一つのワードを見つけた

 

 

 

 

 

「キモチップ」

 

 

 

 

 

初めて見る単語である。

 

何か新種のポケモンやゲームのことなのか、「チップ」とあるぐらいだからコンピュータ関連の新技術のことなのか、僕にはサッパリだった。

 

ただ、僕の中で確信していたのは「これは"気持ち悪い(キモい)+チップ"のことなのだろう」ということである。

 

 

 

兎にも角にも、見てみないことには真実は分からないので、見てみることにした。

 

しかしそこには、「キモチップ」というものに対して否定的なツイートが散見され(というか炎上しており)、真実を知った僕も否定的な感情を抱くことになったのである。

 

 

 

 

 

□「キモチップ」とは何なのか

 

 

キモチップ(KIMO TIP)とは、ハイモジモジさんから2015年に発売された商品の名称である。(なお5/23 11:50現在、ハイモジモジさんのサイトのキモチップに関するページは削除されている)

 

小切手を模した小さなメモ用紙になっており、そこに書き込めるようになっている。

 

無地のものもあれば、「ご馳走さまでした」「有難うございました」などのお礼の一言が入っているものや、「まいどおおきに」「どえりゃーうみゃー」などの方言が入ったものなど、ラインナップは多彩だ。

 

 

 

ハイモジモジ代表の松岡厚志氏はTwitterで、

 

 

 

ご飯が美味しかったときや、丁寧なサービスを受けたとき、チップみたいに「ありがとう」を伝えられたらいいよね。

 

でもチップ文化のない日本では、お金を渡したらびっくりされます。そこでチップみたいに「気持ち」を渡せたらと思い、小切手風のメモをつくりました。

 

 

 

として、キモチップのコンセプトを紹介している。(なお現在、松岡氏のTwitterからはキモチップに関する全てのツイートが削除されているが、Togetterにまとめられていた氏のツイートから抜粋した。)

 

なるほど、これは"気持ち+チップ"である。僕が当初抱いていた"キモい+チップ"ではないらしい。僕の心が歪んでいたのである。

 

 

 

 

コンセプトもある程度理解できる。

確かに日本においては「おひねり」「寸志」などはあっても「チップ」という文化は希薄である。「おひねり」や「寸志」は渡すシチュエーションや金額に制約があるように思えて、「チップ」のような気軽さはあまり感じられない。

その中で、飲食店やホテルなどでおひねりよりもハードルの低いチップで気軽に感謝の気持ちを伝えられるような商品は面白い試みだろう。すごくアイデアを感じられる商品であると思う。

 

 

 

 

□なぜキモチップは「炎上」したのか

 

発売から4年が経ち、コンセプト的にもアイデアを感じられるこの商品はなぜ炎上したのだろうか。僕は大きく2つの要因を以下に見出した。

 

 

①松岡氏の"気持ち"が透けて見えてしまった

 

②フォーマット化され可視化された瞬間に"気持ち"は成立しなくなる

 

 

 

①松岡氏の"気持ち"が透けて見えてしまった

 

 

キモチップが炎上したきっかけの一つに松岡氏のツイートがある。

 

 

 

チップ文化のある国では「ピローチップ」というのがあって、ホテルを出るときベッドメイキングをしてくれたメイドさんに感謝の気持ちで1ドル紙幣を置いたりします。

 

でも「それだけじゃ物足りない」と思い、部屋に余っていた割りばしで「THANKS」って文字にしたことがあります。喜んでもらえたかな。

(このツイートも削除済み)

 

 

このツイートには10膳以上の割り箸で作られた「THANKS」をホテルの部屋に置いておいた写真が掲載されている。

 

氏としては「感謝の気持ちをさらに込めたい」という意図があったのだろう。

しかし、それを置いたところで、次の利用者のためにそれを片付けなければならない。その割り箸は「ゴミ」として処分しなければならず、結局のところ掃除の方の仕事を増やしてしまうことになるのだ。

このツイートから、氏の「自己満足」が透けてしまったのである。

 

 

 

そして彼の「下心」のようなものも透けて見えてしまった。

 

キモチップの商品紹介のページにはこのような写真が掲載されていた。

 

f:id:leoman-a-saseli:20190523134641j:image

(さいてててんさんのツイートから)

 

これはもはや"気持ち"とか"チップ"ではないだろう。

ここにあるのは"下心"とナンパ"である。「感謝の気持ちを伝える」ために作られた商品の使用例がナンパである。もはや意味がわからない。氏からしてみればジョークのつもりだったのかもしれないが、だとしても商品紹介のページで使うようなジョークではない。

 

さらにハイモジモジの他の商品紹介ページにも

 

f:id:leoman-a-saseli:20190523125220j:image

 

これも一つの"ナンパ"である。シチュエーション的には会社で気になる人を夕食に誘っているのだろうが、「Deng On」(伝言)という商品名には合わない。

 

 

他にも松岡氏をモデルにしたようなキモチップ販促小説の内容など、至る所で松岡氏の"下衆な下心"が見え隠れしていたのが炎上につながった理由の一つだと思う。

 

 

 

 

②フォーマット化され可視化された瞬間に"気持ち"は成立しなくなる

 

 

そして、炎上のもう一つの理由がキモチップが「フォーマット化されたもの」だということだと推測している。

 

 

 

 

キモチップには"気持ち"を"チップ"にするという一つの「フォーマット」がある。

 

 

しかし、"気持ち"が"チップ"になることはない。チップは現金を置いておいたりする事で成立する文化である。チップを"気持ち"で代用することはできないのである。

 

 

あるシチュエーションにおいては、"気持ち"は現金以上の価値を持つ。しかし、全てのシチュエーションにおいて、そうとは限らない。全てのシチュエーションにおいて"気持ち"が現金以上の価値を持つのであれば、根本的にチップ文化は成立しないだろう。基本的にスマイルは0円なのである。

 

 

つまり、キモチップはチップ文化の「疑似体験」に過ぎず、「チップ」としては成立しないのである。感謝の気持ちを紙に書いたとかその紙が小切手風であるからといって、その"気持ち"が現金になるわけでも、価値が上がるわけでもない。押し付けがましいのである。

 

 

 

「"気持ち"を紙に書く」であるツイートを思い出す。

 

ちょうど1週間前に投稿されたとあるカフェのツイートである。

 

 

 

都内のカフェ「つむぐカフェ」さんでグラタンを食べた中国人の方が残したメモ書きが話題になった。

 

その方はグラタンを初めて食べたようで、その味に感動して、メモ帳の切れ端(詳細は元ツイートを参照してほしい)に「すごくおいしかった」という旨の言葉を慣れない日本語で書いていた。

初めて食べるグラタンの味に相当感動したのだろう。ところどころに誤字がありながらも一生懸命に"気持ち"を伝えようとしたのが第三者から見てもよくわかる。

 

 

その中国人のメモは湧き上がる感情をしたためたもので、決してチップのつもりで書いたのではないだろう。いわば突発的なものであると解釈できる。

 

 

しかしキモチップは「"気持ち"を伝える欄」が用意された形式的なものである。メモのように突発的なものではない。ある意味計画的なものだと捉えることもできよう。

 

 

このフォーマット化された計画的なものを使われることで、僕には感情がイマイチ伝わってこなくなる。"気持ち"を伝えるアイテムを使われた方が気持ちが伝わらないという皮肉が起きてしまう。「予めこれを持っていたのか」と思うと、むずがゆさを感じてしまうのである。

 

 

 

キモチップという目に見える形でフォーマット化されてしまうことで、"気持ち"(感情)が薄れてしまう。さらに、「キモチップではチップにならない」ということも炎上につながったのだろう。

 

 

 

 

 

□薄い関係には不適

 

 

ここまでかなり酷評してしまったが、僕はキモチップを全く否定するつもりはない。キモチップはチップとして使わなければ、面白いアイテムであると思う。

 

 

飲み会で幹事にお金を払う時に「今日はありがとう!」みたいなメッセージを渡したりするように、「知り合い・同僚・家族」などの「濃い関係」には使うことができるだろうし、味のあるメッセージとして消費できそうである。しかし、飲食店やホテルなど、知らない人同士の関係性には間違いなく不適だ。

 

 

 

 

 

 

キモチップは用法・用量を守って正しくお使いください。